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 捜査のプロが明かす“スパイの見分け方”とは?

(@nanashinanashi-com)
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 プーチンはKGBを志した理由について、日本で暗躍した工作員、ゾルゲに憧れたからだと語っている。そうした歴史上のスパイが活動した旧ソ連の時代から、彼の国は我が国で諜報を活発に行ってきたのだが、検挙されることはほぼない。何が捜査を阻むのか。

 ***

 勝丸円覚(えんかく)氏は1990年代に警視庁に入庁し、2000年代初めから数年前に退職するまで、一貫して公安部外事課で勤務してきたスパイ捜査のプロだ。

 以下、その勝丸氏がロシア・スパイの実態を明かしていく。まず、ロシアには諜報機関が全部で三つあるという。

「KGBからの流れをくむSVR(対外情報庁)とFSB(連邦保安庁)。さらに、軍直轄の独立情報機関GRU(軍参謀本部情報総局)です。日本国内で活動する人数は、全体で80人程度。内訳はSVR40人、GRU30人、FSB10人といったところです。任期は2~3年ですが、5年間滞在する者もいます」

スパイのやり口は
 スパイは表と裏の顔を使い分ける。ゾルゲにはドイツ人ジャーナリストという表の顔があったが、

「FSBは全員、“外交官”の肩書でロシア大使館に在籍しています。SVRとGRUも、その半数が大使館所属の武官などの“外交官”。残りは、ロシア通商代表部に所属している。皆、日本語が堪能です」

 無論、本国で彼らはエリートだ。多くは大使館か通商代表部敷地内の集合住宅に住むが、中には家賃が30万円の高級マンションに暮らすケースもあるとか。

 活動はそれぞれ異なり、

「SVRが狙うのは最先端の産業情報です。またFSBは海上保安庁に人脈を作り、艦隊に関する情報等を取得しています。一方、GRUは軍事全般のネタを集める。例えばですが、ミサイルを正確に誘導する技術にかかわるデータなんかがターゲットです」

 そのやり口はこうだ。

「彼らは企業が出展する展示会などに参加し、人脈作りをします。そして、対象者には飲食店で会おうとする。最初はネットでも取れるような資料をくれないかと頼んできます。見返りの謝礼は安くて、クオカード3千円くらいです」

 そして、機密度の高い資料を徐々に要求しはじめ、対価も増額していくのが常套手段だ。

「企業内部の関係者じゃないと入手できない資料には、10万円程度の謝礼を払います。現金は封筒に入れて手渡しする慣わしです」

スパイを見分ける方法は“名刺”
 氏は一方で、スパイを見分けるのは存外、難しいことではないとも語る。

「スパイかスパイじゃないかは、名刺を見るとすぐに分かります。通常の外交官であれば“文化担当”や“政務班”といった肩書が記載されていますが、“武官”であれば、まず間違いなくGRUです」

 

 さらに、名刺に“外交官”とだけ印字しているなら、SVRかFSBなのだという。加えて、

 

「動きも通常と違う。点検行動をして、尾行をまこうとする。いわゆる“消毒”を行うのです」

 

 彼らは、東京も隈なく知り尽くしている。

 

「一例を挙げれば、ロシアの工作員は、“消毒”のために大塚駅をよく利用します。ホームが一つで、その両側に山手線内回り、外回りの電車が停車するシンプルな構造だからです。降り立つと、同じ電車の降車客が全員、階段を使って改札口へ向かうまで見届けて、さらに端から端まで歩く。そんな具合に、ホームの顔ぶれを確認してから、数本後の電車へ乗り込みます」

 

なぜ逮捕できない?

 手強い相手だ。警察はこの厄介な工作員と、日々どう向き合っているのか。

 

「基本的には秘匿尾行を行い、諜報員が誰と接触したかを監視します。協力者を逮捕して、情報漏洩の実態を解明するのが目標ですが、逮捕に持ち込めないこともある。機密情報を抜き取られる危険があると判断すれば、“強制尾行”も行います。電車ではつり革を掴んで隣りに立つ。トイレで用を足す時にも、わざわざ横に並ぶ。徹底して、見張っているとアピールするのです」

 

 端的に言えば嫌がらせだが、その効果は抜群。強制尾行をすると、スパイは協力者に会わなくなるのだ。

 

 もっとも、ここで一つの疑問が浮かぶ。なぜ、本人を直接逮捕することができないのか。

 

「ウィーン条約に加盟している国は、スパイでも外交官の資格を有するなら、外交特権を持ち、逮捕できない取り決めなんです」

 

ボガチョンコフ事件

 結局、日本は諜報員がのさばる“スパイ天国”の汚名を甘受せざるをえないのか。

 

 思い出されるのは、GRU所属のボガチョンコフなるロシア海軍大佐が00年、海上自衛隊の3等海佐を籠絡し、機密情報を入手していた事件だ。3等海佐は密会場所の飲食店で逮捕されたのに、肝心の大佐は席を立ち、事情聴取にも応じず、そのまま離日したのである。

 

 勝丸氏が嘆息して言う。

 

「政府ができるのは、捜査情報を元に工作員を“ペルソナ・ノン・グラータ(好ましからざる人物)”に指定し、国外退去させるだけですが、簡単にはやれない。報復として、日本の外交官が国外追放されかねないからです。もっとも、昨今、欧米各国は相当数の“外交官”を退去処分にしている。我が国も誰が諜報員かは把握しています。退去を言い渡すことくらい、本来はすぐにでもできるはずです」

 

失敗したスパイはどうなるのか

 実際、つい先日、日本政府もロシア大使館の職員ら8名に退去通告をした。その者たちが、警視庁の監視対象だったというのは専門家も一致するところだ。

 

「退去を通告された場合、通知から48時間以内に出国しなければ、外交特権がなくなり逮捕されます。ただし、大体の場合、外務省が大使館にそれを伝えた時点で、彼らは帰国のために荷造りを始める。そして1日か2日で成田から旅立ってしまいます」

 

 だが、工作員たちも国外に逃亡したからといって、安泰というわけではない。

 

「ロシアに帰ってから、刑務所に入ったり、行方が分からなくなったりするんです。いずれにしても、酷い扱いを受けることは間違いありません。諜報活動はバレたらおしまい。彼らも、命がけなんですよ」

 

 失策したスパイは、故国においても、安住できない定めなのだという。

 

「週刊新潮」2022年4月21日号 掲載

 

https://www.dailyshincho.jp/article/2022/04220556/

 

 

 
投稿済 : 2022年4月22日 08:12
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