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AV男優と結婚し話題の「はあちゅう氏」こと伊藤春香氏によるセクハラ告発トラブル訴訟
はあちゅう氏の“セクハラ告発トラブル訴訟” 被告男性は「セクハラ撲滅よりも保身を優先した不当訴訟」《総務省も注視》
昨年5月30日、ブロガー・作家の「はあちゅう氏」こと伊藤春香氏は、自身のブログでこう宣言した。同日には《誹謗中傷が成立するかどうかは、明確な基準があるわけではなく、訴えてみないとわからない》《片っ端からいきます》とツイート。直前にはSNSでの誹謗中傷を受けていたプロレスラーの木村花さんが自ら命を絶つ事件も起こっており、徹底抗戦を誓う姿勢は多くの支持を集めた。
その後、宣言通りプロバイダに発信者情報の開示を請求し、昨年11月の時点で開示決定が出た投稿やアカウントは約240件。東京地裁では今も連日、はあちゅう氏を原告人とする開示請求や訴訟が行なわれている。
しかし、その中には首を傾げたくなるような訴訟も提起されているようだ。
今年6月、名誉毀損を理由にはあちゅう氏から訴えられたと話すのは弁護士のAさん(40代)だ。Aさんははあちゅう氏が運営していたオンラインサロンへの在籍経験もある男性だ。
「私にとってはまさに青天の霹靂でした。訴状が私の所属する弁護士事務所へ直接送られてきたのですが、あまりに心当たりがなくて、最初は『何だろう?』と……。訴状を読むと、原告がはあちゅうさんだったんです」
一体、Aさんに何が起こったのか。
Aさんが加入した「はあちゅうサロン」の実態
時は2018年4月に遡る。Aさんは、はあちゅう氏が立ち上げたばかりのオンラインサロン「はあちゅうサロン」に加入した。
「もともとはあちゅうさんには興味があって、Twitterをフォローしていました。#MeToo運動で、彼女が電通時代のセクハラを告発したときは応援していましたし、臆することなく意見を発信していく姿に好感をもっていました。クラウドファンディングサイトを通じてサロン会員を募集していたので、様々な人と気軽に交流できることを期待して参加を決めました」(同前)
会員募集ページで《“「自分」を仕事にする生き方”を実現する、行動で人生を変えていく》と銘打たれたサロンの活動は、Facebookの専用ページでの交流がメインだったという。プロモーション局、経営企画局、グローバル局などからなる6つの“局”があり、会員はそれぞれ希望する局に所属。さらに、「部活動」と呼ばれる趣味や仕事を通じたグループがいくつも派生していた。
「会費は月額9800円。サロンメンバーは女性のほうが多いかなという感じでした。はあちゅうさんから発信される情報は自己啓発系が多く、“待っていないでまずは自分から与えなさい”という趣旨の『ギブせよ』という言葉を好んで使っていました。『人を育てたい』というようなこともよく言っていましたね」(同前)
《性犯罪にあいました》“セクハラ”を告発する投稿
「よくあるオンラインサロンのひとつだと感じましたが、トラブルもありました。それぞれの“局”では、企業から依頼されて仕事をすることもあったのですが、その仕事を引き受けても報酬が出ないということで一部の会員から不満が上がり、ネットでは“奴隷制”ではないかとも言われていました。
ただ、私はサロンを学びの場として捉えていたので、そこは気になりませんでしたね。むしろ、あらゆる分野の勉強を目的とした部活動を立ち上げたり、月に1度のオフ会に参加したりと交流を楽しんでいました」(同前)
サロン内で精力的に活動し、充実した日々を送っていたAさん。ところが、数ヶ月が経過した8月1日深夜1時頃、いつものように専用ページを閲覧していたAさんの目に、衝撃的な内容の投稿が飛び込んできた。
《実は、今年に入ってから、性犯罪にあいました。》
《「じゃあチューしよ?」と、【路上】で、突然私にキスをしてきたのです。》
「B子さんという若い女性による、はあちゅうサロンの男性会員から受けた“セクハラ”を告発する投稿でした。相手男性の名前は伏せられていたものの、どう対処するんだろうと1時間ほど眺めていたところ、突然その投稿がはあちゅうさんによって削除されたんです。
投稿から削除までの時間があまりに早かったことや、B子さんではなくはあちゅうさんが投稿を削除したことに強い違和感を覚えました。もちろんセクハラ告発自体は片側の言い分ですし、真偽はわかりませんでした。でも、運営の対応としてこれは良くない、と思いました」(同前)
「この件は性犯罪とは言えないと思っています」
対応に疑問を感じたAさんは翌日、Facebookの専用ページやtwitterを通じて抗議した。
《いかに楽しくても安心感のない、どこに進むかわからないコミュニティになると、コミュニティ所属者は相当な不安を抱く》
《対抗言論という考え方がある。声に対しては声で対抗する。誤解があるなら言葉で説明する。だが、誰かの声を「なきもの」として黙殺してしまえば、その者は声をあげる手段をなくす》
「抗議からほどなくして、はあちゅうさんから、ご自身が告発投稿を削除したことを認めた上で、《私はこの件は性犯罪とは言えないと思っています》とFacebook上で返信がありました。告発された側の男性からは削除後に話を聞いたようですが、肝心の告発者であるBさんへの聞き取りはしていないようでした。つまり、告発を削除した時点では、どちらの人物からも話を聞かず、投稿を読んだだけだったんです」
Aさんはさらに《声をあげた者の存在を受け止めるべき》《「隠蔽している」との印象を抱かせかねない》などと説得を試みたものの、はあちゅう氏からは《サロンとして対応することは今後もない》と返答があるのみだった。
「はあちゅうさんの投稿には《一方的な訴えを鵜吞みにして人を罰することやリンチのような状態になるのは、望ましくない》など首肯する部分ももちろんあります。ただ、当事者の話を聞かずに投稿を削除することは“一方的な訴えを鵜呑みにする”ことなのではないか。#MeToo運動を牽引するはあちゅうさんを支持してきた自分としては、彼女の対応は受け入れ難いものでした」
失望したAさんは、ほどなくしてサロンを退会。しかしその後も、この事件はAさんの心に深く刻み込まれていた。
AさんがTwitterで告発「オーナーの姿勢の絶望した」
今年5月、Aさんは自身のTwitterアカウントでこう呟いた。
《そう言えばかつて某オンラインサロンでセクハラ被害の告発(真実かどうかは不知)がなされたのに、サロンのオーナーが告発投稿を無断で削除したときは、普段温厚な私もキレた。セクハラ被害を開示した者の声に十分寄り添わないオーナーの姿勢に絶望した。オーナーは女性だった》
さらに6月にも、再び思いを発信。
《昔、あるオンラインサロンに入ってたのだが、そこの会員Aが「会員Bよりセクハラされた」とサロンの掲示板で告発した。その告発投稿をサロンのオーナーが無断で削除した。それがわかったとき、私は「このオーナーマジであかん」と思い、オーナーに対しサロン内で猛烈に抗議した》
Aさんが語る。
「どちらも、その時々で話題になっていたセクハラ事案に関連して呟いたものだったと記憶しています。被害を訴える人の声が抑圧されないことを願い、少しでも社会の風通しがよくなればという思いからのツイートでした」
しかし6月22日、冒頭のように、Aさんのもとにいきなり訴状が届いたという。
ツイート削除要請なしに突然、訴状が届いた
「訴訟は原告、被告どちらにも負担がかかりますから、事前に和解交渉がなされたり、何かしらの通告があるのが普通です。それなのに、ツイートを削除してほしいとの要請すらありませんでした。これは実務上かなり異常なことです。
代理人弁護士は、堀江貴文氏や立花孝志氏らの代理人も務める福永活也弁護士でした。福永氏は著名人への誹謗中傷問題に熱心に取り組んでいて、“日本一稼ぐ弁護士”とも呼ばれています」
訴状によれば、はあちゅう氏側はAさんの2件のツイートについて、《サロン内でセクハラと称される事件が起きたことの摘示》であり、それによって、はあちゅう氏自身の社会的評価や信用を低下させると主張している。Aさんが語気を強めて反論する。
「私のしたツイートはどちらも、“セクハラが起きたこと”を示すものではなく、“セクハラ告発があったこと”、“それをオーナーが無断で削除したこと”について言及しているだけです。しかも、セクハラについては《真実かどうかは不知》ときちんと書いている。当時からこの姿勢は一貫しています。それに、はあちゅうさんを貶める意思がないことは、はあちゅうさんやサロンの名前を出していないことからもわかると思います」
「オーナーの判断で投稿は削除」変更された会員規約
また、はあちゅう氏側は訴状のなかで、Aさんが告発の削除について「無断で」と記したことも《真実ではない》としている。サロン会員規約に記されている「オーナーの判断で投稿は削除する」という文言を理由に、削除は無断ではないと主張するのだ。
「いくら規約に書いてあったとしても、B子さんに確認をとっていない以上、無断は無断でしょう。それに、私がサロンへの参加を決めたときには、そんな規約はありませんでした。訴状でも、規約の文面は、2020年頃に作成されたと説明されています。B子さんがセクハラを告発したのは2018年8月ですから、当時には記載されていなかったことになります。それを根拠に“無断ではない”と言い張るのは、明らかにめちゃくちゃです」
総務省で提言 情報開示請求の濫用
精神的苦痛の慰謝料として、はあちゅう氏側が請求する額は20万円。Aさんによれば「名誉毀損の慰謝料として極端に安いというわけではないが、おそらく弁護士費用は下回る金額」だという。
SNSでの誹謗中傷は深刻な社会問題だ。だからこそ、はあちゅう氏が行った発信者情報の開示においても、約240件に開示決定が出たのだろう。しかし、投稿者の情報開示は慎重に行うべきだという意見もある。2020年8月28日に行われた総務省の「第5回発信者情報開示の在り方に関する研究会」ではこんな提言がされている。
「誹謗中傷対策をうたう弁護士の方の中で、有名人やタレントに対して手数料なしで 発信者への通知を引き受けると喧伝したりとか、あるいはアンチの顔を友人限定で回覧し ているとつぶやく弁護士がいたりとかして話題になっておりまして、今後、制度の濫用的 な事案が増えていかないかという懸念があります」
――「第5回発信者情報開示の在り方に関する研究会」より
Aさんは今回の訴訟について「発信力のある弁護士を訴えることで、自身への批判的な意見を牽制しようという狙いも垣間見える」とも語る。
「本件については到底認められる余地のない不当訴訟です。ただ、私は訴訟を提起されたこと自体に精神的に大きなショックを受けました。自らセクハラの告発をしたインフルエンサーが、主宰するオンラインサロン内でなされたセクハラの告発を無断で削除したこと、さらにそれを不当だと指摘しただけの私に対して訴訟を提起するという行動は、一貫性を欠く支離滅裂なものです。セクハラの撲滅を含めた社会正義の実現よりも自らの保身を優先するもので、社会的影響力をもった方の行動として許されないものだと思います」
はあちゅう氏に事実関係を尋ねたところ、秘書を通じて「進行中の裁判に関しては裁判に影響が出る可能性があるので、お答え出来ず、本取材に関しては回答を控えさせていただきます」と返答があった。
東京オリンピックにおいても問題視されたSNSでの誹謗中傷。社会的にも法的措置を後押しする風潮が醸成されつつあるが、はあちゅう氏の訴訟にはどのような司法判断がくだされるのだろうか。
引用元(「文春オンライン」特集班/Webオリジナル(特集班))
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