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新会社で信頼発信せよ いなべFM、収支や運営ずさん
いなべ市のコミュニティーFM「いなべFM」をめぐり、ごたごたが続いている。災害時には緊急放送を流す「防災ラジオ」として2014年7月に開局。市が資金を投入し、NPO法人「いなべ市文化協会」が運営する。しかし、不明朗な運営に批判が相次ぎ、関連事業で市の不祥事も発覚した。いったい、どうなっているのか。
FM開局のきっかけは、合併前の旧四町時代から使用する同報無線が老朽化したこと。市は整備費用が比較的、安価とされるFMラジオの電波を利用した災害時緊急放送システムの導入を決めた。
総務省東海総合通信局によると、政治的な公平性を保つため、自治体は放送事業者になれない。そこでNPO法人の文化協会が運営することになった。普段は情報や音楽の番組を放送し、緊急時には市が割り込み放送を流す。
市が放送設備を整備。運営面では協会に業務委託料の名目で一三年度に二千百万円、一四~一七年度は毎年四千二百万円を支出した。いなべFMの収入の九割近くを占める。
その使い道に疑問の声が上がった。協会が市に提出した一四年度の活動計算書によると、昨年八月に亡くなった前会長に年間六百三万円の報酬が支払われていた。前事務局長もほぼ同額。一方で元パーソナリティーの男性によると、時給千円ほどで働き、年間収入は五十三万円だった。
そもそも四千二百万円という業務委託料の算出根拠もあいまいで、市議会では「根拠をはっきりさせるべきだ。使途についても市民の中で疑念が生じている」と批判が出た。
肝心の割り込み放送も、流すには市と協会の防災協定が必要。ところが、締結したのは開局から一年以上たった昨年八月。この間に災害が発生したら、市が強制的に放送できなかったことになる。
日沖靖市長によると、協会から委託料に加え、割り込み放送をした場合に発生する可能性がある番組スポンサーへの損害賠償金の支払いも求められたという。「応じられないならば、協定は結ばないと言ってきた。前会長が亡くなってから協会の姿勢が変わり、すぐに結んだ」と説明する。
昨年九月に文化協会の新会長に就いたのは弓矢孝己氏。それまでは協会の理事長を務めていたが「物事が前会長と前事務局長のトップダウンで進んでいた。私も分からないことだらけ」と弁明する。
日沖市長は「業務委託料が四千二百万円になった理由は書面に残っておらず、担当の危機管理課はほとんど関与していないので、今さら事実関係を追い切ることは難しい」と話す。市は使途についても詳しく把握せず、協会任せにしていた。
今年二月には、今度は市の不祥事が明らかになった。防災ラジオの全戸配布や屋外スピーカーなどを設置する事業で、議会に諮らないまま工事請負契約を変更していた。
市議会で市側は「担当部局が忘れ、組織としても把握できていなかった」と陳謝。日沖市長は責任を取って15%減給、一カ月の処分となった。
いなべFMは改革されるのか。弓矢会長は「貴重な税金を使うので、明朗な使い方がしたい。一度失った信頼を取り戻すのは大変だが、市民の理解を得られるようにする」と話す。市は一六年度当初予算案で協会への支出を減額し、三千七百万円を計上した。今後は新たな事業者として市が100%出資する株式会社をつくるという。
ただ、東海総合通信局によると、事業者を変更するには事業計画をあらためて提出し、審査をゼロから受け直さなければならない。かなりの時間がかかりそうだ。
市が多額の資金を投入する事業でありながら、一連の問題は、あまりにずさんと言わざるをえない。信頼を取り戻すことはできるのだろうか。
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