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基幹産業育成資金詐欺に間して
コロワイド会長が30億円騙された「M資金詐欺」、その驚きの手口を公開! | 倒産のニューノーマル | ダイヤモンド・オンライン (diamond.jp)
コロワイド会長が30億円騙された「M資金詐欺」、その驚きの手口を公開!
基幹産業育成資金とは、敗戦時GHQが日本から接収した財源が基幹産業への投資として運用されているなどという、お決まりのストーリーだ。
蔵人会長と言えば実質的に一代でコロワイドグループを築いた立志伝中の人物である。日大藤沢高校卒業後、父親が経営していた逗子市の「甘太郎食堂」の経営を引き継ぎ、瞬く間に有力チェーンに育て上げた。「かっぱ寿司」「牛角」など積極的な買収で成長を加速させてきた「超ヤリ手」であることは疑問の余地がない。
そこで誰しも不思議なのが「そんな海千山千の偉大な経営者が2800億円の資金提供などという荒唐無稽な話にだまされるとはなぜなのか」ということだろう。2800億円はコロワイドの連結売上高を超える金額だ。そんなおいしい話があると思うものだろうか。
結論から言えば、蔵人会長は「自分こそその幸運にあずかるにふさわしい人物だ」と固く信じていた。だから詐欺師に言われるがまま10回も振り込んだのだ。一度だまされる人は二度、三度とだまされる傾向がある。詐欺被害者の名簿が高額で取引されるのはそのためだ。
10回振り込んでも2800億円が手に入らず、さすがに「おかしい」と気づいたのだろう。昨年5月、県警に刑事告訴したという。
詐欺グループが使った
基幹産業育成資金とは
今回、蔵人会長が引っかかった「基幹産業育成資金」の詐欺で使われたものに近いとみられる説明資料を入手した(下の写真「MSA資金等の流れ」)。
資料を見ると、「MSA資金等の流れ」は≪初期≫と≪現在≫で上下に分かれており、資金提供を受ける会社は、≪初期≫では「基幹産業」、≪現在≫では「与信基準企業」と記載されている。≪現在≫はずいぶん入り込んだスキームにしているが、こけおどしはこれだけでない。
「財政法第44条に基づく国際流通基金 長期保護管理権委譲渡契約方式資金」というタイトルの資料と「国際金融 相関図」も説明資料として用いられているようだ(下の写真)。
大手メディアのある社会部記者によれば、詐欺グループは蔵人会長に「基幹産業育成資金」について「日本国の育成の目的で、財政法第44条に基づくもの」などと説明していたという。
実際、写真の説明資料(「財政法第44条に基づく国際流通基金 長期保護管理権委譲渡契約方式資金」)には下記のように書かれている。
「本資金は1951年、パリのICC(International Chamber of Commerce:国際商工会議所)にわが国が加盟したときから始まったものであり、世界銀行(World Bank)、IMF(International Monetary Fund:国際流通基金)、FRB(Federal Reserve Bank:〈 米 〉連邦準備銀行)、BIS(Bank for International Settlements:国際決済銀行)等が参画して、日本の基幹産業の世界大戦後、復興に役立てる事を目的としてスタートし、財政法第44条(特別資金の保有)に基づき運用されるものです。昭和26年、当時の政府、官僚首脳及び学識経験者の意見により、国家の簿外資金として、その有効運用の方途が決められ、組織が創設されました。我が国復興資金として、『償還契約』により、直接、企業、銀行等の外的信用枠を国が借りて、国の財源をつくり、その財源(公的資金)捻出に努力していただく基幹産業企業、銀行の首脳個人を特定し、その使用をほぼ無条件で委任するという『長期保護管理権委譲渡契約方式』(国の財源の運用管理権を貴殿に委任しますという契約)により運用されています。」(原文ママ)とある。
丸の内の超一等地に
自社ビル保有のウソ
IMFが「国際流通基金」と訳されるなど(正しくは国際通貨基金)、まさに噴飯ものの内容だが、蔵人会長はこの「基幹産業育成資金」の運用をあなたに託すと告げられた際、「『ついにここまでたどり着いたか』と機密保持の契約にも署名した」(7月8日付朝日新聞)という。もともとこの資金の存在を信じていたのだ。
言うまでもなくこのような資金は存在せず、ご丁寧に財務省もホームページで詐欺に気を付けるように注意喚起している。
しかし、蔵人会長はすでに冷静ではない。おそらく「近年資金実行先企業名」(下の写真)の資料も見せられたはずだ。
「まさに名だたる企業がこの秘密資金を託されてきた。コロワイドも超一流企業の仲間入りだ」とこれまでの苦労を振り返り、感慨にふけったことは想像に難くない。
はやる気持ちからか、蔵人会長は信じられない勘違いもしている。交渉の舞台となった東京・丸の内の超一等地にある大規模ビルについて詐欺師らに「自社ビルだ」と説明され信じてしまうのだ。
このビルは実は「郵船ビル」であることがわかっている。東京駅から皇居に向かう目抜き通り「行幸通り」の左手にそびえ立ち、皇居にも面している。その名のとおり三菱グループの名門企業「日本郵船」の本店所在地である。このビルを所有する会社であれば、確かにすごい資金力だ。
詐欺師らは1階に「一般社団法人アジア経済協力会議所」なる法人を登記し、逮捕された五十嵐容疑者が代表理事に就任していた。蔵人会長はこの法人の口座にカネを振り込んでいたとみられるが、アジア経済協力会議所なる法人が日本郵船の本社ビルを所有していると思ってしまうことが、筆者はにわかには信じられなかった。
超大手の企業トップは
詐欺師にだまされやすい
そこで、現地に行けば何かわかるかもしれないと思い、実際に行ってみた。
ビル1階にあるのは日本郵船のエントランスのほかは「ROLEX」「中国農業銀行東京支店」、中東の巨大企業「アブドゥルラティフジャミール」と大手レンタルオフィス「サーブコープ」の受付だ。
アジア経済協力会議所はレンタルオフィスに入居していたというから、おそらくサーブコープと契約していたに違いない。だが、サーブコープを利用する数十の法人のひとつが郵船ビル全体を所有するなどありえないと思うのが社会人の良識だろう。M資金詐欺の成功例を見ると「ウソは大きいほうがいい」というのが正しいことがよくわかる。
実はM資金詐欺を成功させるにはコツがある。詳しい人物によれば「ターゲットは超大手企業の代表取締役限定」だという。サラリーマン経営者かオーナー経営者かは関係ない。とにかく誰でも知っているような大企業の代表取締役だけを狙う。
これらの人たちは成功の過程で「自分は特別に選ばれた存在で、それにふさわしい偉大な役割と権利がある」など強く信じる傾向があるのだという。詐欺師はその自尊心を巧みにくすぐるから被害者が絶えないのだ。
親族名義や資産管理会社の分も含めると蔵人会長の保有するコロワイド株の時価は238億円(7月20日終値ベース)。30億円取られたところで蚊に刺された程度なのかもしれない。恥ずかしくて詐欺被害にあったことを名乗り出られない経営者が多い中で、詐欺師を野放しにしてはならないと告訴に踏み切ったのはある意味立派といえる。
しかし、週刊誌報道が出たことで大戸屋ホールディングスへの敵対的TOBにはマイナスに作用するのは間違いないだろう。大戸屋の一般株主は蔵人会長の経営者としての見識を疑うからだ。
また、取引行の一部は今回の詐欺被害について知らされていなかったという。一般論だが、銀行は悪い情報を隠そうとする経営者を信用しない。
なお、コロワイドはダイヤモンド編集部からの質問について「警察が捜査中であり、また、個人のことなので回答できない」とコメントしている。
コロワイドはいまのところ週刊誌報道を黙殺しているようだが、今回逮捕された3人が起訴されれば、法廷で起訴状が朗読される際、被害者はおのずとバレる。それでも引き続きコロワイドのかじ取りを行うつもりであれば、説得力のある説明が求められるだろう。
古典的な手口で「30億円」! なぜコロワイドの会長はコロッと騙されたのか:スピン経済の歩き方(1/5 ページ) - ITmedia ビジネスオンライン
古典的な手口で「30億円」! なぜコロワイドの会長はコロッと騙されたのか
外食大手コロワイドの蔵人金男会長が「M資金」詐欺で30億円をだまし取られたらしい。報道によれば、逮捕された男たちは「2800億円の『基幹産業育成資金』を提供できる人物を知っている」などと言って、交渉費や資金を保管する倉庫の金をだまし取ったという。
この「基幹産業育成資金」は、以前から注意喚起がなされていた。2018年2月22日に財務省がWebサイトに名指しで注意するように呼びかけていたのだ。
『「基幹産業育成資金」と称した資金提供を財務省から受けられる、という不審な勧誘等があったとの情報提供がありました。 上記のような勧誘等を受けた場合は、安易に信用することなく財務省の担当部署を確認するなど、詐欺等の被害に遭わないようご注意ください』
これを聞いて、一代でコロワイドという大企業を築いた経営者が、なぜこんな古典的な詐欺にコロッとだまされてしまったのかと不思議に思う人も多いだろうが、筆者はちょっと逆の考え方で「古典的」だからこそ、コロワイド会長のような方でもカモにされてしまうのではないかと思っている。
「古典」というのは流行り廃りに関係ないので、その社会が抱える問題、あるいはそこで生きる人間の本質を鋭くえぐっている。実はこれは詐欺にも当てはまる。分かりやすいのが、オレオレ詐欺に代表される高齢者を狙った振り込め詐欺だ。
「今時あんなもんにひっかかるヤツいるの?」と世間が感じるような超ベタベタ、手垢のついた古典的詐欺で、警察やマスコミがこれでもかと注意喚起をしているが、令和になってもまったく絶滅しない。なぜかというと、この詐欺が日本社会の「弱点」を見事についているからだ。それは一言で言えば、子どもがいい歳になっても、親から経済的にも精神的にも自立できない「弱点」だ。
独立行政法人 国立女性教育会館の「家庭教育に関する国際比較調査」によれば、日本の親は、韓国、タイ、米国、フランス、スウェーデンの親と比較すると、自分の子どもが15歳になっても料理やバイトができないと考えている割合がかなり多い。一方、子ども側も経済的に自立ができないので、何かあればすぐに親や祖父母の財布を頼りにしてしまう。このズブズブの日本的親子関係が続く限り、振り込め詐欺のカモはいくらでもいるというわけだ。
日本社会の「弱点」
では、それを踏まえて、「M資金」という超古典的詐欺は、日本社会のどんな「弱点」をついているのか。いろいろなご意見があるだろうが、筆者は日本の経営者が「国からの支援」に依存し過ぎているからではないかと考えている。
要するに、日本の経営者の間に「会社経営は大変な仕事だから国から手厚くサポートされて当たり前」という考えがまん延しているため、「国が有望企業や基幹産業に対して、非公式に行っている融資に、あなたが選ばれた」なんて眉唾な話に疑いなく飛びついてしまうのではないか。
そう考えるのは、まずひとつに「政策金融」の過剰ぶりがある。少し古いデータだが、経産省や内閣府職員による「先進4カ国における政策金融について」というレポートがある。そこで注目すべきは、政策金融規模(中小企業向け信用保証を含む)の対名目GDP比だ。米国が5.7%、英国も5.8%、ドイツ17.0%、フランス9.1%と総じて政策金融の役割が限定的な中で、日本だけが27.2%(139.7兆円)と突出している。この傾向は今もそれほど変わっていない。
つまり、日本は主要先進国の中でも圧倒的に「経営者に国が融資をするのは当たり前」というカルチャーが強い国なのだ。
これが「M資金」詐欺のカモを量産している可能性はないだろうか。つまり、いつまでも子どもや孫に世話を焼きたがる親と、経済的自立のできない子どもという親子関係が振り込め詐欺の遠因になっている構図とまったく同じで、何かとつけて企業に手を差し伸べたい政府と、国から手厚い支援を受けるのが当たり前だと考える経営者の関係が、「M資金」のような詐欺を生み出しているのだ。
「基幹産業育成資金」とは
バカバカしいと思うだろうが事実、「M資金」のような話に飛びつく経営者の多くは「オレに対して日本政府が手を差し伸べるのは当り前だ」くらいに考えているのだ。
今から15年くらい前、ある詐欺事件を追っかけていたら、企業経営者に「M資金」による融資を持ちかけている男につながった。彼は自分が関わっているものは、旧日本軍からGHQが押収した隠し資産などと言われている「M資金」とはまったく異なるものだと強調して、こんなことを言っていた。
「今時、M資金なんて言っているのはだいたい詐欺師。こちらはそういう怪しい話ではなく、財政法第44条に基づいて、戦後日本の発展を裏から支えてきた”基幹産業育成資金”という非公式ながら立派な政府系金融です。ただ、一部の優良企業だけに融資する特殊性から”マルトク資金”と呼ばれ、世間には伏せられている。これがいつの間にか、都市伝説のM資金と混同されたわけです」
そう、コロワイド会長も引っかかった「基幹産業育成資金」なる概念は、15年以上も前からその世界では知られていたのだ。
男が言うには、この「基幹産業育成資金」は、日本銀行が外国債の金利とドル貯蓄による金利、さらにIMF(国際通貨基金)の分配金を秘かに貯めてきた「裏金」で、日本経済の発展に寄与する人物に対して、最大1兆円という巨額資金を破格の低金利で無担保融資をしてくれる、というものらしい。外務省や大蔵省のOBなど5人で編成される事務局が、この融資を受けるに値する人物の選定を行い、ある日突然、融資を持ちかけるという。
「これまで自動車や家電など戦後の復興を支えた企業の経営者はほぼ例外なくこの資金を受けてきました。NTTも民営化する際に受けましたし、最近では、ソフトバンクの孫さんもそうですね」
カモになる人たちの本質
こういうウサンくさい話は個人的には大好物なので、男の口から語られる「戦後の裏経済史」を時が経つのも忘れて聴き入った。ただ、その一方で頭の中には「ああ、いつものやつね」とシラけたリアクションをしているもう一人の自分もいた。
「これは例の怪しいM資金ではない」という枕詞から始まる詐欺話は、新人記者だった22年前から嫌というほど耳にしていたからだ。「基幹産業育成資金」というのもベタなフォーマットで、昭和の時代から「重要産業育成資金」「近代促進支援基金」「大蔵省特殊資金」など、ほぼ同じコンセプトの詐欺が氾濫している。取材テーマとしては目新しくもなんともない。
すると、そんな筆者の心中を察したのか男はあきれた感じで、「基幹産業育成資金」がほしくてしょうがないという大企業経営者たちの話をしてくれた。彼らは筆者と異なり、この話を疑うことは一切なく、むしろ「待っていたよ、ようやくきたか」くらいのリアクションで、本気でお声がかかるのを待っている人もいるという。
「みなさん、一度や二度、このような秘密資金があることを聞いたことがあります。そして、自分にはそれを受ける資格があると信じて疑いません。自分の会社は間違いなく日本経済のためになっているという自負があるので、それを支えるのは日本政府としては当然だと考えているんです」
このような傾向は、業界のリーディングカンパニーを率いるスゴ腕経営者や、一代で巨大企業に成長させたカリスマ創業社長になればなるほど顕著になっていくという。それくらい自分の力を過信しなくては、企業経営などできないのかもしれない。
いずれにせよ、このような「国から支援を受けるのが当たり前」という日本の経営者特有の思考回路があるから、「M資金」のような古典的詐欺が今でも通用してしまう部分は否めない。
旧態依然とした「日本の経営者」
振り込み詐欺グループが摘発されても次から次へと出てくるように、コロワイド会長をだました詐欺師たちが逮捕されたところで、「M資金」や「基幹産業育成資金」は決してなくらないだろう。
昭和の古典的詐欺が令和日本でも通用することは、裏を返せば、カモである日本の経営者の精神構造が、昭和の時代からほとんど変わっていないことでもある。実際、PwCグローバルネットワークのStrategy&が世界の上場企業2500社を対象に調査したところ、日本の新任CEOの平均年齢は世界平均53歳よりも7歳高く、他企業からの招へい、別企業でのCEO経験、外国人、女性、MBA保有率などあらゆる項目で最低だったという。
世界では若い人たちが続々と経営に参画している中で、いまだに日本は「おじさんピラミッド」を年功序列で上りきった人たちが、「ご褒美」のような形で経営層に名を連ねている。
そのような昭和のキャリアパスなので当然、そこで生じる悩みや孤独も昭和である。だからこそ、昭和の詐欺に引っかかるのではないのか。
いまだに「M資金」のような古典的詐欺にダマされる経営者が存在することは、実はこの国の経営者が世界的に見るとかなりヤバいレベルにあることを意味するのかもしれない。
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